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押し帯❤

今日は、昨年お届けしたお誂え帯のご紹介です。

こちらはいわゆる押し帯❤
見る人が見れば分かる、ご依頼主のご贔屓を表している文様です。
テーマは「枝梅」「菊」「片喰」。
ご依頼主がこの3アイテムに絞り込む間、お話を伺い、普段のお着物の画像をお送りいただき、お好みなどを自分の中に落とし込み。。。
それを元に図案を4枚描き、お送りしました。

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気を衒わず、ぱっと見は品良く、色味をシックに抑えて洒落味を出すイメージで。。
長唄をなさる方で、ほぼやわらかものしかお召しにならないとのこと。
伝統文化に造詣が深くていらっしゃり、日本のあちこちで消えかかっている伝統文化、技術に対して愛情をもって行動を起こしておられる様子が、メールでのさまざまなおしゃべりから伝わってまいりました。
普段のお着物の画像からもメールの文章からも、品が良く控えめでかつ粋なお着物姿が目に浮かびました。

だいぶ迷われたそうですが、この中から1枚選んでくださいました。
お誂えは、ああでもないこうでもないと悩む時間が楽しいんですよね。
ご希望に沿って少し修正して、お太鼓は決定。

次は前。
大きな地紙を一部見せるか、小さめの地紙模様を配するか、もしくは閉じたお扇子か。
そして中の文様は? 
無限にある可能性からいくつかの案を拾い出し、図案にしてお見せしました。
お選びになったのは、閉じたお扇子に、梅等を入れずボカシ染めに金霞。
やっぱり!と、私の心も定まったのでした。

生地や配色はお任せとのことで、そうなると、打ち合わせを進める中で私の中に膨らんだご依頼主のイメージが頼りになっていきます。
その結果、生地は艶のある丹後無地、地色はごく薄い砂色に。

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最初は植物の背景に黒や濃紫など江戸風のきりっとした色を使うつもりでしたが、悩んだ末に強い色はあまり使いませんでした。 
長方形を並べた図案などと違い、地紙文様の場合はそれぞれが隣接しているので強いところだけが目立ってしまうように感じたり、やわらかものしかお召しにならないとのことだったので、小物で変化をつけていただく方が汎用性が高いように感じたり。

お届けした帯をご覧になり、
“本当に私の手持ちの着物の全てに似合います。
びっくりです。”
と、嬉しいお言葉をいただきました。
いただいたメールから、あれこれ合わせて楽しんでくださっているご様子が目に浮かぶようでした。
そして次の朝、陽の光の下で改めてご覧になった瞬間、推し様の次の舞台に合わせるお着物が決まったとのこと。

“墨色の、一つ紋の江戸小紋です。
あとは帯揚げと帯締めを合わせるだけ。
まあ、なんて楽しいこと!”

その楽しさ、、、分かります❤
着物って形やアイテムが決まっているからでしょうか、あれこれ組み合わせるのが本当に楽しいですよね。
メールを拝見してふと、上村松園の
「私の一生は姉様遊びをして過ごしたようなものです」
という言葉を思い出しました。
着物合わせを楽しんでいる時の女性は、幾つになっても姉様遊びをしている少女のように可愛らしく無邪気で、私にはとても愛おしく感じるのです。


謹賀新年 2022

あけましておめでとうございます。
旧年中はたくさんのご厚情をいただき、心からお礼申し上げます。
皆さまのご健康とご多幸をお祈りいたします。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

私は今年も地元山形には帰らず、受験生がいることもあり、房総いすみで静かなお正月を過ごしています。
私の今年のテーマは、 「基盤を固める」。
気づけば数年、数十年、日々に追われてとりこぼし、置き去りにしてしまっている諸々と、改めてじっくり向き合う年にしたいと思っています。
ゆるゆると心を整え、身体を整え、環境を整え、時間を整えて。

さて、新年最初にご紹介するのは、昨年お届けしためでたづくしの五歳祝着です。

現代において、五歳男児用祝着はほとんどが既製品で、白生地からのお誂えはめったに無いのではないかと思います。
私自身、三歳女児用の被布や七歳の振袖のご依頼はいただきますが、男児用の祝い着は独立してから初めてのご依頼でした。
ご依頼主であるお祖母様と、図案、地色、生地とすべてをゼロからご相談し、たくさんの職人さんや白生地屋さん、呉服屋さんに助けていただいたおかげで、私の友禅は至らないかもしれませんがそれでも、大変貴重な祝着が完成いたしました。
(クリックすると大きく見られます。)

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生地はできれば純国産の絹をとのご希望で、御皇室御用達白生地メーカー伊と幸さんにご相談。
日本古来の貴重な蚕種 『又昔』の生地を使わせていただきました。

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純国産の繭を使用した絹は、日本国内の流通量のわずか1%未満ともいわれています。
「日本の絹」のマークは日本で製織されたとても上質な絹に表示されているものですが、それでも、全材料の生糸のほとんどは輸入品です。
(繭から国産のものは「純国産」の記載があります。)
時代の流れでもあり、また絹以外にも人にも地球にも優しい優秀な生地がどんどん生まれて欲しいとも思いますが、やはり、風土と共に長い年月受け継がれてきたものたちには、生き続けてほしいと願わずにはいられません。

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地紋は紗綾型。
卍を連ねた古い起源の文様で、「宇宙」「無限」「不断長久」を表すといわれているそうですね。

図案はご依頼主のご希望をひとつひとつ伺い、宝船、松、鶴と亀を配しました。
お名前やご家族にちなんだアイテムも、あちこちに潜んでいます。

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実際の加工の一番最初は、「紋糊」。
染め上がったものに張り付けるタイプではなく、石持ちといってあらかじめ白い丸に染め抜いておくタイプでもなく、ご依頼主の紋の形に染め抜いておく方法。
白生地からの誂えならではのやり方です。
紋糊屋さんもだいぶ少なくなったようです。。

さて、紋糊が置かれましたら図案を写し、もち米の真糊による糸目糊置き。

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その後はフノリ(海藻)地入れ、そして友禅(色挿しのこと)。

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チャコールグレーの糸目糊を洗い流し糸目の線が白く出ると印象がぐっと変わるのを考慮するのが難しいところ。
事前にお子様のお写真を拝見していたのでそのイメージを胸に、明るく晴れやかに大らかに、かつ古典の風格を感じさせる色合いを目指しました。

友禅の後は、糊伏せ。
最初に伏せた方が乾きすぎないよう一気に終わらせる必要があり、いっぱいいっぱいだったので写真を撮り忘れました。

次の地染めは、羽織だけでなく長着もあるため、専門の地染め屋さんにお願いしました。
弟子入り時代からお世話になっているふじや染工房さんです。
今回も紋糊屋さんのことから羽織と長着の地入れのことから、たくさん教えていただきました。
さすがの完成度かつ感激の超特急で染め上げてくださり、紋上絵屋さん湯のし屋さんにも寄り道してくださり、生地の艶も見事に生まれ変わった状態で戻ってきたのでした。
ここからは延々と仕上げ作業。
そしてたっぷりの本金箔加工。

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そして刺繍屋さんへ。
京都の伝統工芸士、中村刺繍さんに金駒を効果的に入れていただき、そして仕立て屋さんへ。
仕立て上がってから、さらに合い口(縫い目)の仕上げを調整して、完成です。

大変雑なお恥ずかしいラフ画ですが、、

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このように仕上がりました。
(クリックすると大きく見られます。)

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そして、素晴らしいのが袴!!
袴も良いものをとのご希望で、東北羽州街道にて300年以上着物屋さんを営んでおられる布施弥七京染店さんを頼りました。
着物や袴のこと、良いもののことを全て分かっておられる。
その上で、ご依頼主や私の希望に寄り添い、細かいところまで気を配って模索してくださる。
それが感じられて、大変頼もしくありがたく感じました。
ご依頼主に数反の高級袴地をお送りいただき、ご相談の末、選ばれたのは米沢平新田さんの青い縞の袴地。
仕立て上がったものを拝見しましたが、いや~素晴らしい!
張りと艶があり、どっしりとしてなんとも言えない存在感。
画像では伝わらない、ずっと眺めていたい(できれば触っていたい)生地。
袴の捌さばける音が聞こえるよう。。
これをはいて颯爽と動いたら、さぞかし心地よい音がするでしょう。
ぜひぜひ日本男児の皆さまにはスーツの代わりにこのような袴をはいていただきたいものです。
男振りも五割増しになることでしょう❤
私も何とかして身に着けたい。。。

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そしてこの青の縞は、松の緑と呼応してとても清々しく見えるなあと思いました。

もうひとつ、長襦袢にもこだわりが。

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いつもお世話になっている小田織物さんの、麻の葉地紋の長襦袢地です。
お名前にちなんで、お子様と一緒にこちらの地紋を選ばれました。
見えないところにも、想いは表れるものですね。

さて、七五三のお祝いのお写真を、ご依頼主が送ってくださいました。
纏ってくださった様子を拝見するのはいつも本当に作り手冥利に尽きます。
小さな男のお子様は慣れない着物を着せられてきっと窮屈でしたでしょう。
私も二人の息子達の小さい頃を思い出したりして、そんな想像も含めて幸せな気持ちをいただきました。

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お母様は淡い優しいコーディネートでとても素敵❤

一緒に七歳のお祝いをされたお姉様がお召しなのは、お母様のかつてのお着物一式とのこと。
お祖母様とそのお母様(つまり曾祖母様)が一緒に選ばれた、思い出のお着物なのだそうです。
そして髪飾りはお祖母様が使われていた、60年近くも前のもの。
さらにお姉様がお持ちのバッグはなんとお祖母様が作られたナンタケットバスケットとのこと。

月日の流れと、共に流れ続ける人々の想い、願い、祈り。
お話を伺いながらそんな大きな流れを感じ、そして今回の祝着も私も、その流れに混ぜていただいていくのを感じました。
たくさんの技術を伝える職人さんたち、材料や道具、製品、それらを扱う方々と共に。

今の時代、多角的に見れば何が正しいのか答えを出すのはとても難しいと感じます。
なのに時は止まらず流れ続け、自分は無力で。
その中で自分の役目は何なのか。
猫のヒゲのような触覚のようなアンテナだけは立てたまま、地道に“今、目の前のこの染め”に向き合っていきたいと思います。

マルニ友禅工房 鈴木三千絵















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